技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2016年9月号
MRI技術開発の最前線
新たな3T装置「Vantage GalanTM 3T」における最新アプリケーション
千葉 寿恵(東芝メディカルシステムズ(株) MRI営業部)
2016年6月,新たな3T装置「Vantage Galan 3T(Galan 3T)」の国内販売を開始した(図1)。本装置は,「技術の粋を集めた革新的3T」をコンセプトに,多くの新技術が採用されている。本稿では,Galan 3Tに搭載される最新のアプリケーションと検査空間を変える最新技術について紹介する。
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図1 Vantage Galan 3T 概観
■非造影MRAの新しいアプローチ:“mUTE 4D-MRA”
これまで当社は,“Flow-Spoiled FBI”や“Time-SLIP”などユニークな非造影MRA技術を開発し,有用性の高い検査を提供してきた。このたび,新しく誕生したのがmUTE 4D-MRAである。
mUTE 4D-MRAは,arterial spin labeling(以下,ASL)収集を活用し,従来time of flight(以下,TOF)法で問題であった偽狭窄に強いだけでなく,一度の撮像で動態観察をも可能とする技術である。TOF法で問題となる長いTEに起因した位相分散による信号低下を改善するため,ultrashort TE(UTE)収集と組み合わせ非常に短いTEでの収集を可能としている。加えて,mUTE 4D-MRAは一度のラベリングで多時相を得る特長を持ち,ラベリング時間(TI)を複数設定することで,動態観察を可能とする(図2)。それにより,通常のASL法では血管描出能が血流速度に依存するが,mUTE 4D-MRAでは血管描出能が血流速度,ひいては患者さんに依存しない検査を行うことが可能になる。
また,収集の間に読み取り傾斜磁場を常に印加し,RF励起直前にわずかな傾斜磁場切り替えを行うことで撮像音を最大99%カットする静音機能を併せ持つ。1999年から全装置に搭載しているハードウエア静音化技術“Pianissimo”との組み合わせにより,クラス最小の撮像音を実現。検査を受ける患者さんだけでなく,待合室などの環境にもやさしいMRIを実現している。
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図2 mUTE 4D-MRA動態観察の様子
■3Tで心臓検査を実現する“SUREVOI Cardiac”および“CardioLine+”
近年,心臓MRIの検査実績は増加1)しており,検査効率の良い装置性能が求められている。その背景の中,車の自動運転のように,非常に簡単に心臓検査を行えるアプリケーションがMRIにて実現された。その最新技術が,SUREVOI Cardiacである。これは,レジストレーションを用いた心臓推定技術であり(図3),熟練した知識が必要とされる心臓MRI検査においてVOI設定を簡易アシストする。さらに,CardioLine+により,心臓検査の複雑な複数の断面設定を,1回の息止め撮像を行うだけで可能となる。CardioLine+では従来の“CardioLine”で可能であった左心系6断面だけでなく,右心系と弁の断面設定まで含めた全14断面が設定でき,臨床検査の幅をさらに広げることが可能となる(図4)。これらのアプリケーションにより,43%を占めていた操作時間の割合を9%まで削減し,術者に依存せず検査効率を向上させた。操作手数を少なくすることもできるため,心臓MRIの検査と並行して画像解析を進めることも可能となり,ワークフローを大幅に改善することができる。
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図3 SUREVOI Cardiacによる心臓検出
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図4 CardioLine+による全14断面の検出画面
─:左心系6断面 ─:右心系4断面 ─:弁4断面
■新しいコントラストを計算で生み出す“Olea Nova+”
Olea Nova+は,撮像された画像を基に,ワークステーション「Vitrea」上でTR,TE,TIのパラメータをユーザーが任意に設定し,新しい画像コントラストを計算で作成するアプリケーションである(図5)。Olea Nova+は,T1map画像とT2map画像を用いた計算をベースとし,頭部においては,FFE3D MP2RAGEシーケンスによるT1mapとFSE2D mEchoシーケンスによるT2mapを基に,撮像時とは異なる撮像条件(TR,TE,TI,PSIR,DIR)の画像を作り出すことが可能である。Olea Nova+は撮像手法に依存しない手法であり,頭部以外の適応において各部位ごとの最適なシーケンスでの解析が可能であり,今後の臨床での活用が期待されている。また,ワークステーション上で演算するため,MRI検査室以外でのパラメータ変更が可能であり,症例に応じたパラメータによる変化をインタラクティブに観察することが可能となる。
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図5 Olea Nova+を用いた計算画像の作成
■新しいMRI検査の形を提供:「MRシアター」
MRシアターは,患者さんにプロジェクタから投影した映像を見せることで,MRI検査空間を感じさせない技術である。ボア内に設置したスクリーンに映像を投影することで臨場感の高い映像が目前に広がり,MRI検査の狭い・暗いといった不安感・不快感を払拭する(図6)。
本技術は,寝台上に設置されたスクリーンに映像を投影し,寝台に設置されたミラーにて患者さんがスクリーンの映像を見る。実際のボア内カバーより遠くに映像が映し出され,広々としたバーチャル空間を感じることができる(図7)。さらに,スクリーンと鏡は寝台の動きに関係なく一定の距離を保って動くため,寝台がガントリー内に入っていくことを感じにくい。また,スクリーンをドーム型にすることで,映像に奥行きを与えることが可能となり,臨場感の高い映像を患者さんに提供することで,MRI検査空間を感じさせない新しい空間を実現することが可能となる。
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図6 MRシアターボア内風景
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図7 MRシアター設置イメージ
◎
当社は,ひとにやさしいMRI装置をめざし,患者さんにやさしい検査環境,操作者にやさしい操作性に注力して開発を進めている。今後も東芝メディカルシステムズのMRI装置にご期待いただきたい。
●参考文献
1)日本循環器学会 : 2013年循環器疾患診療実態調査(2014年度実施・公表)調査結果報告書. 2014.
http://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/jittai_chosa2013web.pdf
●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/